「1TBのHDDを買ったのに、パソコンでは931GBと表示される」——このような経験はないでしょうか。HDDのメーカーが誇大表示をしているわけではなく、「キロ」の定義がふたつ存在することによる差です。
データの単位は、日常的に使う単位とは異なる定義が混在しており、混乱を招きます。この記事では代表的な落とし穴と、その見分け方を整理します。
SIのキロ(10³)とIECのキビ(2¹⁰)
日常生活で「キロ」というと1,000倍を意味します(km、kg、kHz など)。これはSI単位系(国際単位系)の接頭辞です。
一方、コンピュータは2進数で動作するため、歴史的に「キロ」を 2¹⁰ = 1,024倍として使ってきました。1,000と1,024は近い値なので、当初はそれほど問題になりませんでした。しかし単位が大きくなるほど差は開いていきます。この混乱を解消するためにIEC(国際電気標準会議)が定めたのが「キビ(kibi)」などの2進接頭辞です。
| SI(10進) | 値 | IEC(2進) | 値 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| KB(キロバイト) | 1,000 B | KiB(キビバイト) | 1,024 B | 2.4% |
| MB(メガバイト) | 1,000,000 B | MiB(メビバイト) | 1,048,576 B | 4.9% |
| GB(ギガバイト) | 10億 B | GiB(ギビバイト) | 約10.7億 B | 7.4% |
| TB(テラバイト) | 1兆 B | TiB(テビバイト) | 約1.1兆 B | 10.0% |
キロの段階では2.4%の差でしかありませんが、テラでは10%に達します。単位が1つ上がるごとに、ズレが約2.4%ずつ積み重なっていくとイメージすると分かりやすいと思います。
HDDの容量表記が小さく見える理由
HDDやSSDのメーカーは容量をSI単位(10進数)で表記します。「1TB」は 1,000,000,000,000 バイトちょうどです。
一方、Windowsはこれを2進接頭辞で計算しながら、表示上のラベルには「GB」と書きます。実際に計算するとこうなります。
1,000,000,000,000 ÷ 1,073,741,824 (= 1 GiB) = 931.32...
→ Windowsの表示は「931 GB」
正確には 931 GiB なのですが、ラベルが「GB」のままなので単位の違いが見えません。HDDのメーカーもWindowsも間違ってはおらず、使っている定義が違うだけです。
なお「1GiB = 1.0995GB」と説明されることがありますが、これは誤りです。1.0995 は TB と TiB の比率で、GB と GiB の比率は 1.0737 です。単位の段によって比率が変わる点に注意してください。
macOSは Mac OS X 10.6(Snow Leopard)以降、SI単位(10進数)で表示するようになりました。同じドライブでも、Windowsでは931GB、macOSでは1TBと表示されます。
通信速度の単位の混乱
インターネット回線の速度は「Mbps(メガビット毎秒)」で表示されますが、ダウンロード速度を表示するアプリの多くは「MB/s(メガバイト毎秒)」を使います。ビットとバイトが混在しているため、数字だけを見比べると8倍ずれます。
1バイト = 8ビットなので、換算はこうなります。
100 Mbps ÷ 8 = 12.5 MB/s
「100Mbpsの契約なのにダウンロードが10MB/sしか出ない」という状況は、実は理論値の80%が出ているということで、むしろ良好な部類です。
見分け方は単位の表記です。
| 表記 | 読み | 単位 |
|---|---|---|
Mbps / Mb/s |
メガビット毎秒 | ビット(小文字の b) |
MB/s |
メガバイト毎秒 | バイト(大文字の B) |
大文字のBはバイト、小文字のbはビット、という約束です。1文字違うだけで8倍変わるので、速度の話をするときは単位まで含めて確認する必要があります。
実効速度は理論値より下がる
もうひとつ押さえておきたいのが、回線速度の表記は理論上の最大値だという点です。実際の通信では、次のようなオーバーヘッドが乗ります。
- TCP/IPやEthernetのヘッダなど、データ本体以外の情報
- 再送処理や輻輳制御
- 経路上の混雑、無線区間の品質
そのため実効速度は理論値の7〜8割程度になるのが一般的です。「1GBのファイルを100Mbpsの回線で送ると何秒かかるか」は、次のように見積もります。
1 GB = 8,000 Mbit(SI単位の場合)
8,000 ÷ 100 Mbps = 80秒(理論値)
実効80%なら 100秒ほど
どちらの定義かを見分けるコツ
同じ「GB」という表記でも、文脈によって10進と2進のどちらを指すかが変わります。おおまかな傾向は次のとおりです。
| 分野 | 使われる定義 |
|---|---|
| ストレージ製品の容量表記(HDD/SSD/USBメモリ) | SI(10進) |
| Windowsのファイルサイズ・容量表示 | 2進(ラベルはGB) |
| macOS・iOS の容量表示 | SI(10進) |
Linuxの ls -h / df -h |
2進(--si で10進に切替可) |
| メモリ(RAM)の容量 | 2進 |
| 通信速度 | SI(10進)・ビット単位 |
メモリだけは今も2進が基本です。「8GBのメモリ」は 8 GiB = 8,589,934,592 バイトを指します。ストレージは10進、メモリは2進と分野によって慣習が違う点が、混乱の元になっています。
よくある質問
Q. なぜ「キビバイト」という呼び方は広まらないのですか
A. IECが2進接頭辞を定めたのは1998年ですが、それ以前から「1KB = 1,024バイト」という使い方が定着していたためです。技術文書やLinuxのツールでは KiB / MiB が使われますが、一般向けの表記では今もGB・TBが使われ続けています。
Q. 1TBのHDDから「消えた」69GBはどこへ行ったのですか
A. どこにも消えていません。1TB は 931 GiB と同じ量で、表示に使っている単位が違うだけです。ただしこれとは別に、ファイルシステムの管理領域として数パーセントが使われるため、実際に保存できる容量はもう少し小さくなります。
Q. ファイルサイズを見積もるとき、どちらで計算すべきですか
A. 突き合わせる相手の表示に合わせるのが実務的です。Windowsの空き容量と比べるなら2進(GiB)、クラウドストレージやAPIの容量制限と比べるならSI(GB)で使われていることが多いので、上限値がどちらの定義かを先に確認します。
Q. 動画のビットレートも同じ単位ですか
A. 動画のビットレートは Mbps(メガビット毎秒)で表され、通信速度と同じくSI・ビット単位です。「8Mbpsの動画を1時間見ると何GB使うか」は 8 Mbps ÷ 8 × 3,600秒 = 3,600 MB = 約3.6GB と計算できます。
まとめ
データの単位は、同じ表記でも定義が2種類あることが混乱の原因です。
- SIのキロは1,000、IECのキビは1,024。単位が上がるほど差が開き、テラでは10%
- HDDの容量表記とWindowsの表示が違うのは、メーカーがSI、Windowsが2進で計算しているため
- 大文字のBはバイト、小文字のbはビット。Mbps と MB/s は8倍違う
- 回線速度は理論値。実効は7〜8割程度で見積もる
- ストレージは10進、メモリは2進と分野で慣習が違う
単位換算ツールでは、データ容量をSI・IECの両方の単位で相互に変換できます。仕様書の数字とOSの表示が合わないときの確認にお使いください。